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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)2355号 判決 1980年10月09日

原告

長須よし

右訴訟代理人

西村孝一

被告

協生同和証券株式会社

右代表者

早川憲造

右訴訟代理人

吉田元

主文

一  被告は、原告に対し、金五〇三万三、七八〇円及びこれに対する昭和五一年一一月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分しその一を原告の負担としその余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求原因1項の事実(被告の業務)、原告が被告との間で原告名義で信用取引口座設定契約を締結し、これにより被告に対し信用取引による株式の買付、売却を委託し、右信用取引口座の保証金代用有価証券として表②記載の各株券を岡表記載の各預け入れ日に被告に寄託したことはいずれも当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によれば、原告は被告との間で、飛出ぐに子及び長須政司の各名義でも信用取引口座設定契約を締結し、これにより被告に対し信用取引による株式の買付、売却を委託し、右信用取引口座の保証金代用有価証券として表①記載の各株券を同表記載の各預け入れ日に被告に寄託したことを認めることができ(但し、右両名名義の信用取引口座の存すること及び右各口座に表①記載の各株券の寄託があつたことは当事者間に争いがない。)、これに反する証拠はない。

二原告は、原被告間の委託保証金代用有価証券預託の法律関係は消費寄託である旨主張し、原被告間の信用取引口座設定契約には、原告主張のとおり、原告が被告に寄託する保証金代用有価証券について、被告はこれを任意に他に貸付けたり、担保に供することができ、これと同種同量の有価証券をもつて返還することができる旨の約定の存することは当事者間に争いがないが、<証拠>によれば、保証金代用有価証券が本件の如く株券である場合、株主名簿上は顧客(原告)名義のままであつて、株主としての権利がすべて顧客(原告)に帰属するものとして取扱われていること、預託を受けた証券会社(被告)における保管も特定物として顧客ごと(取引口座名義ごと)に分別してなされていること、保証金代用有価証券が貸株に利用されることは実際上はほとんどないことが認められ、委託者保護の見地からしても、委託保証金代用有価証券預託の関係を消費寄託とみることは当を得たものではないというべきであるから、これに立脚する原告の主位的請求は、これ以上判断を加えるまでもなく、失当であり、棄却を免れない。

三そこで、進んで検討するに、<証拠>によれば、被告の歩合外務員で、前記信用取引口座設定契約に基づく原告との取引業務に従事していた黒田(黒田が被告の外務員であつたことは当事者間に争いがない。)は、その業務に従事中、昭和五一年七月から八月一〇日頃にかけて、原告が右信用取引口座の保証金代用有価証券として預託中の表①記載の三銘柄の株券を含む一二銘柄の株券を、あたかも原告から引出の要求があつたかの如く装つて、被告に対し出庫請求手続をなしてこれを引出し(表①記載の各株券が出庫されたことは当事者間に争いがなく、右各株券の引出日は同表引出日欄記載のとおりである。)、原告に対しては、同年八月一四日、原告名義、飛田くに子及び長須政司名義の三口座を一口座にまとめるために必要であるとして、原告から、右一二銘柄の株券について代用証券預り証を、黒田名義で作成した代用証券預り証の預り証を差入れるのと引換えに返還を受けて、これを同月一六日被告に差入れ(同月一六日黒田を通して表①記載の株券についての代用証券預り証が返還されたことは当事者間に争いがない。)、被告の内部処理上必要な手続を履践した外観をとりつくろつた上で、表①記載の三銘柄を含む一二銘柄の株券を手張り行為用の資金として使うために他に売却して横領したこと、ところが、株券の引渡を受けていないにも拘らず、被告から、出庫された第一製薬株式会社株券等の代用証券預り証の返還を求められたことに不審を感じた原告が被告に電話で照会したことから、黒田の右不正行為はその同僚で被告の歩合外務員であつた鎌井(鎌井が被告の外務員であつたことは当事者間に争いがない。)や被告の受渡保管課の有馬課長の知るところとなり、黒田は右有馬の助言もあつて右事態を収拾するため、横領費消した一二銘柄の株券と同種同量の株券を買集めてこれを原告に返還することとし、鎌井らの協力のもとにこれを買集めたこと、そして、同年八月二四日、鎌井は黒田に代つて同人が買集めた右一二銘柄の株券を原告方に持参して返還したが、その際、鎌井は表①記載の三銘柄の株券と同種の株券については、その株主名義が区々に分れていたことから、原告名義に名義書替の必要があると称してこれを預り保管中、同月二六日頃、これらを、自己の手張行為に使用する資金とするため他に売却して横領し、次いで、同年九月二二日、前記信用取引口座の保証金代用有価証券として被告に預託中の表②記載の四銘柄の株券を含む六銘柄の株券につき、原告から返還要求がなされたかの如く装つて、被告に対し出庫請求手続をなしてこれを引出し(表②記載の株券が出庫されたことは当事者間に争いがない。)、原告に対しては、名義書替のため必要であると称して、同月二四日、原告から右各株券についての代用証券預り証の交付を受けてこれを翌二五日被告に差入れ(鎌井を通して表②記載の株券についての代用証券預り証が返還されたことは当事者間に争いがない。)、被告の内部事務処理上の所定手続を履践した如くとりつくろつた上、その頃、表②記載の四銘柄の株券を、自己の手張り行為に使用する資金捻出のため金融業者に対する担保に供してこれを横領したことを認めることができる。しかして、右認定を動かすに足りる証拠はない。

四以上認定の事実によれば、鎌井の右各横領行為は被告の外務員としての業務執行中に行われたもの(前掲証人鎌井の証言によれば、顧客の依頼により、外務員が株券の名義書替手続を行うことは、被告はじめ証券会社のサービス業務の一環として広く一般に行われているものであることが認められる。)であるから、被告は、その使用者として、右不法行為により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

被告は、外務員たる鎌井の選任、監督につき欠けるところはなかつた旨主張するが、右主張を肯認すべき事情を認めるに足りる証拠はないし、前記認定の事実に徴し、原告にも過失がある旨の被告の主張も採用できない。

そこで、原告の被つた損害額について判断するに、成立に争いのない甲第一九号証の一、二によれば、表①②記載の各株券の右各不法行為時における時価は、表①記載の第一製薬株式会社株券四、〇〇〇株を除き、いずれも別紙計算書(一)記載のとおりであり、右第一製薬株式会社株券四、〇〇〇株についても不法行為時は昭和五一年八月というべきであるから、右時期における終値四〇五円五二銭で計算すると、その時価相当額総額は五〇三万三、七八〇円となり、原告は、鎌井の前記不法行為の結果、右価格相当の株券を失い、同額の損害を被つたものというべきである。

五よつて、原告の本訴請求は、予備的請求中右認定の損害賠償金五〇三万三、七八〇円及びこれに対する各不法行為後の日である昭和五一年一一月一六日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、予備的請求中その余の請求及び主位的請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言については同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(落合威)

株券目録、計算書(一)、(二)<省略>

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